演奏考察

原曲・オリジナルを知って真似するのが大切?外側を飾るより内側を豊かに!

2020年11月4日

こんにちは!打楽器の吉岡です。

元は歌の曲だけど楽器で演奏する、元はオーケストラの曲だけど吹奏楽で演奏する、民謡や伝統音楽をテーマに作られた作品...など。

音楽作品を演奏するとき、原曲やオリジナルが存在する場合がありますよね。

原曲やオリジナルを知って、

吉岡さん(中2)
日本の曲だしハチマキ巻いて太鼓たたくわー!

と、まるっとオリジナルなものを真似しようとしていた時期もありましたが、

吉岡さん(中2)
(・・・で?真似する?どしたらいいの?)

と思っていた時期もありました。

結論から言うと、どこまで忠実に再現するかよりも、本質を理解し自身の演奏とどのように融合させるかが重要だと思います。

原曲・オリジナルを知って演奏に活かすというのは、外側を飾りつけるのではなく、内側を豊かにしていくことです。

表面ではなく本質で

「形から入る」のですね。

単語の意味を理解した上で音読するか、意味は分からないけどそれっぽく音読するか、の違いに似てかもしれません。

伝統芸能にインスピレーションを受け作曲された打楽器アンサンブル作品について、こんなことがありました↓

五線譜に書けば同じだけど…

打楽器アンサンブルの名曲「マリンバ・スピリチュアル」を例に書いていきます。

秩父屋台囃子の「トトトトトトトト…」というリズムがそのまま作品に引用されています。

五線譜に書けば四分音符や八分音符が続くリズムです

しかし、秩父屋台囃子のほうは単純に八分音符をたたいているわけではありません。

実際の演奏を聴いてみると一目瞭然ですが、ただ均等に、規則正しく音が並んでいるわけではありません。

西洋音楽的にリズムを歌えば「トトトトトトトト」や「テケテケテケテケ」になりますが、実際は「テケテテステレケ テンテケステテケ」といった感じで歌っているのだそうです。

この秩父屋台囃子の演奏に含まれる絶妙な「ヨレ(グルーヴ)」「間合い」「訛り」といったものは五線譜に記録することができません。

そもそも五線譜というのは西洋のクラシック音楽を記録するための方法が世界中に広まっただけの話で、民族や文化・芸能ごとに異なる楽譜・音を記録する方法が存在しています。

り囃子など和太鼓は口伝で記録されていくことがほとんどだそうです。よって、同じような方言でも地域によって微妙にアクセントやイントネーションが異なるように、同じ曲の同じ太鼓のリズムであっても、地域ごとに違いがあるそうです。

完全コピーすればいいのか

吉岡さん(中2)
よし、じゃあ打楽器アンサンブルでもこの「ヨレ」「間合い」「訛り」を完全コピーしてたたこう!均等に叩かないようにしよう!

…というのは違うと思います。

実際に演奏するのはそのリズムが引用され五線譜で作曲された「作品」であり、形式も編成も別のものです。

引用されている題材を知ることによって、作曲者が見て聴いていたものを追体験することができます。

また、その作品の持つイメージを膨らませることもできます。

直接的に真似することはなくても、音色の選び方や音楽の方向性など、表現のヒントになります。

今回取り上げた「マリンバ・スピリチュアル」については、「拍子に合わせてたたく乗せてたたくというのは異なる感覚である」と秩父屋台囃子の方は言っています。

ちょっとした知識でも、知っているか知っていないか・体験しているか体験していないかで演奏が大きく変わってくると思います。

編曲作品の場合も

オーケストラ作品を吹奏楽で演奏するときにも通ずると思います。

吹奏楽でオーケストラと同じサウンドを出すことはできません。

それでも、原曲の演奏を聴くことで音色感や雰囲気を近づけたり、うまく近づけられないなら吹奏楽だからこそできることに思い切って舵を切ってみたりすることができます。

歌劇やバレエ音楽であれば、どんなシーンなのか?どんな歌詞なのか?知っておくだけでも、表現の深さ濃さが増していきます。

「表現」を英語にすると「エクスプレッション(expression)」です。

この単語はex(外へ)+press(押す)+ion(名詞系)の組み合わせです。

よって、内側にあるものが少ないと外へ押し出されていくものは必然的に少なくなります。

つまり中身のない薄い演奏になってしまいます。

オリジナルを知り自分の内側にたくさん取り入れることで、表現の幅が広がり、同時に説得力が生まれます。

外部講師に形から入らされた経験

忘れもしない中2の吹奏楽コンクール。

アイリッシュ(アイルランド)音楽を題材にしたコンクール曲を練習していました。

楽譜の指定通り、ドラムセットのフロアトムを使ってアイリッシュ系のリズムをたたいていました。

中学生なりに図書館でアイルランドの本を借りて読んだり、映像作品を見たりしてイメージを膨らませていました。

そんなある日。
レッスンに来た打楽器の外部講師の先生が

「アイリッシュ音楽で使われる太鼓はバウロンと言って、イスに座って片手で演奏する楽器なんだ。だから、君たちも片手でたたくのがいいと思う。」

と言ってきたので、
イスに座って左手を後ろに回し、フロアトムを右手だけでたたくという謎レッスンが始まりました。

(言い返せるような雰囲気じゃなかったし当時は語彙力もなかった。)
(両手でたたくリズムを片手のみで。きつかった。笑)

バウロン 出典:Wikipedia
バウロン奏者 出典:Wikipedia

外部講師が帰った後、顧問の先生が「そんなん意味ないから、今まで通りでいいよ。」と戻してくれたのでホッとしました。笑

この外部講師は完全に形から入ろうとするタイプでした。

表面的に真似する浅はかさ

コンクールで演奏するのはアイリッシュ音楽そのものではありません。

使っている楽器も異なり、両手を使える状態です。

本場の演奏は小編成ですが、吹奏楽編成になると音量も必要です。

そもそも、本場の楽器は吹奏楽で一般的に使われる奏法と全く異なる奏法を使って片手で素早いリズムを叩きます。
バチの種類も持ち方も異なります。

聞きかじったような知識だけで表面的な指導をしていたあの外部講師のことを思うと、今でもムカついてきます。笑

形から入るとこうなる

まとめ

原曲・オリジナル×実際に演奏する作品や環境=深く濃い表現と説得力

私の中では足し算ではなく、掛け算のイメージです。

形から真似するのではなく、実際に自分が演奏する楽器や編成などと掛け合わせて融合させることが大切だと思います。

本質的な部分を内側に取り入れ、演奏・表現に活かすこと。

まずは知識を取り入れそこから取捨選択して統合する作業であり、大きく考えれば「創造」に等しいのではないかと思います。

創造とは世の中にあるものを一人一人(ないしは集団)のフィルターでこして混ぜ合わせたものである

出典不明

外側ばかり飾り立てるのではなく、自分の内側を豊かにして素敵に「エクスプレッション(expression)」していきたいですね!

それでは、また!

  • この記事を書いた人

よしおか りな

埼玉県川越市・新座市を拠点にマリンバや打楽器を演奏したり教えたり、作曲したり、部活動指導員やNPO理事やっている人。場面緘黙の経験やHSP気質を活かしながらお仕事してます。 alla(アラ)はイタリア語で「…のように」を意味します。しなやかに、たくましく、ミネラル豊富でダシにもお茶にもラッコのお布団にもなる…そんな昆布に憧れます。当ブログは硬くなりすぎず、絶妙な歯ごたえと素朴な旨みでお送りしたいと思います。どうぞ、よしなに!

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