打楽器4重奏「万葉のこころ」について

ミュージック・オン・ペーパーhttp://musiconpaper.jp/より楽譜が出版されている拙作の打楽器4重奏「万葉のこころ」について、

「なんだか和歌ってピンとこない!」
「解説読んでから聴いたほうが更に楽しめた!!」

とのご意見をいただきましたので、こちらに綴ってみることにしました。

自身の曲について解説するのは、曲中に仕込んだ色々なモノをタネ明かししていくようで何だか気恥ずかしい。

されど、演奏者・聴き手に楽しんでもらえるのが本望。
採用した和歌の歴史的背景も交えつつ、今回は題材について書いてみます!

さて。

この曲の誕生は犬養孝著「万葉の人びと」(新潮文庫)という本を読んだことがきっかけでした。

見方を変えるともっと面白い、そして和歌を律動(リズム)的に楽しむことを知りました。

和歌の持つリズムの力。

…こりゃ打楽器で演奏するっきゃない!
居ても立ってもいられなくなり書き上げました。

和歌というのはキューブ状のコンソメみたいなものなんですね。
そのままだと美味しくない。
水で溶かして元の状態にすると味が広がります。
和歌もしかり。

その時代や詠んだ人物について知り、想像力を働かせないと美味しく頂けません。
身も心もタイムスリップしなくてはなりません。

また、和歌というのは31文字しかありません。
短いけれど短いからこそ思いを鮮烈に伝えられる。
いわば古代人のTwitterです。

当時の人は和歌を通して喜びや悲しみ、感動を共有し、深いコミュニケーションをとっていたのではないでしょうか。

(例えば和歌を送りあう平安時代の恋愛!まさしく深いコミュニケーションですね!)

冒頭(動画0:00~)

イントロです。私を奈良時代へ連れていって。

ボンゴのwith flexible stickと言うのは、しなる棒で叩いてね、です。
初演では100円ショップで買った菜箸で叩いたと思います。
通常のスティックでは出せない、しなやかで鋭い音をイメージしています。

この部分のボンゴは休符が多いのですが、雅楽で使われる鞨鼓のように少ない音でアンサンブル全体をリードできるといいですね。       

Aから(動画0:28~)

「石ばしる/垂水の上の/さ蕨の/萌え出づる春に/なりにけるかも」 
 
訳:滝のほとりのワラビが萌え出す春になったなぁ  

春の優しい空気、柔らかく芽吹いた草花のイメージです。
あと、新芽のキラキラ・ツヤツヤしたあの感じ。

「いわばしる〜」と、言葉のイントネーションを意識したメロディになっています。また、和歌の五七五七七に合わせて5小節1かたまりになっています。

この歌は「の、の、の」という音がリズムよく流動感を生み出し、よどみない水の流れをイメージさせます。      

Bから(動画1:06~)

そりゃ春になったら草木ぐらい生えるじゃんwそんなに感動なくねw

と思われがちですが、ヒートテックもない、コンビニもない古代人にとっての春の訪れは、この上ない喜びと安堵だったと思います。               

Cから(動画2:03~)

「吾はもや/安見児得たり/皆人の/得難にすとふ/安見児得たり」

訳:私は安見ちゃんを妻にできたよ。嬉しいなぁ。誰も彼もが得ようとして得られなかった安見ちゃんを妻にできたよ。嬉しいなぁ。

(「安見」は女官の名前、「児」は愛称なので「安見ちゃん」)

天智天皇に仕えていた藤原鎌足の歌です。

当時、女官と臣下の恋愛は厳しく罰せられたのですが、優秀な臣下だった鎌足はその女官を妻にすることを許されました。

この歌、五七五七七という限られた字数の中で2回も「安見児得たり」が出てきます。
これは極めて異例なパターンです。

この世で誰もが羨む、手に入れがたいものを私は手に入れた!
イヤッフォォォォォォーッと腕を大きく広げて駆け回りたくなるヤツですね。

と、いうことで身体中にほとばしる喜びを強烈な太鼓群のアンサンブルで表現しました。                    

Dから(動画2:21~)

「吾はもや~」のトムトムは言葉のイントネーションを意識しています。
ここも、やはり5小節1かたまり。

「安見児得たり」のリズムがしつこく出てきます。
嬉しいことがあると何度も人に話したくなるアレです。                    

E(動画2:41~)

一見とっ散らかって見えますが、スフォルツァンドやアクセントをつなげると4人で手分けして「吾はもや~」やっています。


最後は大伴坂上郎女(おおさかのうえの いらつめ)の歌

「来むといふも/来ぬ時あるを/来じといふを/来むとは待たじ/来じといふものを」

訳:来るったって来ないこともあるのに、それを来ないっていうものを、来ると思っては待ちますまい。来ないって言ってるんですもの。
(超要約:べ、別に会いに来なくたっていいんだからね!) 

この歌、全て「来、来、来、来、来」と始まっている上、終わりも一か所以外すべて「お」の母音になっています。
本当は来てほしい。「うらみだらだら」な印象を受けます。

F(動画2:59~)

御簾の向こうで物憂く、想い人を待つ女性。
この時代はLINEもないし、そもそも会おうと思ってもそう簡単に会うことができません。

トゲトゲしいシロフォンの低音域。
ところで短2度(ドシ~)ってどうしてこんなにも女性らしいんでしょうね。
不思議です。
(反対に、ドソドミ~!など倍音に沿った跳躍進行は男性的と言われています。)

G(動画3:38~)

来るの?来ないの?もう、どっちなのよ!
息をつく間もなく、次から次へとテーマ「ラッミファミ~」が始まってしまいます。
THEせっかち。

H(動画4:06~)

スネアの三連符のせいで焦燥感は募るばかりですが、最初の「石ばしる~」のメロディが出てきます。去年の春デートのことでも思い出してるのかな。(こじつけ)           

I(動画4:30~)

譜面上は盛り上がっているように見えますが、Iに入った時点ではまだメゾ・ピアノです。もう一回言います。メゾ・ピアノです。     

J(動画4:44~)

イライラは頂点へ。ティンパニは両手同時にバシバシ叩いています。
だけど、単に怒り狂っているわけではありません。
いろいろ入り混じって複雑です。
愛じゃよ、ハリー。(唐突)

派手に終わらせたほうが一般的にウケはいいのですが(爆)
それが私には出来ませんでした。

いざ、想い人がやってきたら怒りをぶちまけるのではなく一言

「おそかったわねぇ。」

で済みそうなんですよ。この人。


ところでF以降、「ラッミファミ」「ラッミファ#ミ」と、
鍵盤楽器で奏でられるテーマの「ファ」がナチュラル、シャープになる箇所があります。

これ、御簾じゃありませんよ。
間違えた、ミスじゃありませんよ。

是非ゆっくり弾き比べたり歌ったりしてみてください。

そういえば、この曲が初めて書いた(完成できた)打楽器アンサンブルでした! 

 (解説書きながら気づいた)

それでは、また!!

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