こんにちは!
音楽のミステリーハンター(自称)の吉岡です!
バグパイプの演奏が禁止されていた時期があったことを最近知りました。
イギリス・グレートブリテン島の北部、スコットランドを代表する楽器です。
映画「ふたりの女王 メアリーとエリザベス」きっかけにイギリスの歴史に興味を持っていたのですが、楽器に関するトピックがあったとは…!
簡潔に言うと
楽器の演奏を禁止したところで伝統は消えなかった、むしろパワーアップした。
目に見えないものほど後世に残るのでは?という音楽×歴史のお話です。
難しくなりそうな歴史もなるべくサクッとパリッと分かりやすく説明していきますので、安心して読んでくださいね!
イギリスは4つの国が集まった「連合王国」
イギリスの本名はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国。
イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4つに分けられ、かつてはそれぞれ別の国でした。
サッカーのワールドカップでは「イギリス」としてではなく、この4つの地方それぞれのチームで出場しています。
イギリスの大部分を占めるグレートブリテン島の北半分がスコットランド、南半分がイングランド、その西側にウェールズがあります。
地図の緑色の部分がスコットランドです。
「連合王国つくるよー!あーつまれー!」
「いぇーーーい!」
と連合王国になったわけではなく。
もともとこの島には異なる言語・文化を持った人たちが暮らしており、紀元前から異民族の侵入や衝突がたびたび起きていました。
大陸の果ての島国であり単一民族の日本からすると想像しにくいですが…。
色々と日本は例外中の例外の国でして、ひとつの国として数えられていてもひとつではない、そんな国が世界中にたくさんあります。
バグパイプはスコットランドの誇り
不思議な形をしたこの楽器は、袋(写真のチェック柄の部分)に空気を吹き込み、袋にたまった空気を押し出しながらリコーダーのような部分を指でおさえて演奏します。結果、息継ぎで途切れることなく演奏されます。
手は2本なのにリコーダーみたいな部分が4つあるのは、指で操作することなく鳴らしっぱなしになる管です。(ドローンの役割)
ざっくり言うと、一人で旋律吹いてるけど一緒に音高が変わらない音が常に鳴ってる、といった感じです。
実はバグパイプはスコットランド発祥でもスコットランドだけの楽器でもなく、似た構造を持つ楽器はヨーロッパじゅうに分布してます。
とは言え、スコットランドでのバグパイプの歴史は古く、5世紀ごろから演奏されているそうです。
スコットランドのバグパイプは「グレート・ハイランド・バグパイプ」と呼ばれ、他のバグパイプに比べ音量が大きいそうです。まさに野外向きの楽器です。
そのため、古くは戦場での戦意高揚や敵への威嚇に使われていました。
先頭に立って進軍したバグパイプ吹きたちは「パイパー」と呼ばれ、兵士として慕われ尊敬を集めた存在だったようです。
戦場で先頭に立つ、ということは真っ先に攻撃を受けます。
バイパーたちは吹き鳴らしながら勇敢に進軍し、前のバイパーが倒れてしまったら後ろの仲間がその楽器を拾い上げ、途切れないように吹き続けたそうです。
また、バグパイプは戦場のみならず芸術音楽やダンス音楽などでも使われていました。
バグパイプはスコットランドの人々にとって、民族の誇りであり強い愛国心を沸き立たせる唯一無二の存在だったと考えられます。
禁止されたバグパイプ
日本では江戸時代が始まった17世紀ごろ、力をつけていたイングランドにスコットランドは支配されつつありました。
イングランドは異なる言語や文化を持つスコットランドを同化するべく、スコットランド議会を廃止させたり、イングランドの言葉を強要したりしました。
そのほかにも政治的・経済的な差別が長く続くこととなりました。
18世紀中ごろスコットランドは蜂起を試みるも失敗し、とうとうバグパイプの演奏が禁止されてしまいます。
バグパイプはスコットランド人にとって民族の誇りであり、強い愛国心を沸き立たせる唯一無二の存在。
「みんな元気になって一致団結して独立運動しちゃうから、ダメ!」とイングランドは考えたようです。
楽器がダメなら声でやってやる!
人々はバグパイプをあきらめてしまったのか?
「楽器がダメなら声でやってやる!」
と、バグパイプの演奏を声に置き換えた「マウス・ミュージック(口唱歌)」がこの時期に盛んになりました。
元々は楽譜を使わずに伝承する手段として使われていたマウスミュージックですが、人々はバグパイプの代わりにマウスミュージックを伴奏に踊るようになります。
人々は力に屈することなく自分たちのアイデンティティを保ち、後世へ伝えていきました。
その甲斐あってか、数十年後バグパイプは復活します。
今では世界中で愛される楽器に
戦場で使われることはなくなりましたが、スコットランドの軍楽隊にはバグパイプ隊があります。現在もパレードの際には一番先頭を飾っています。
また、バグパイプの魅力は世界中へ広まり、様々な国や地域で愛され、演奏されています。
ちなみにバグパイプ禁止下で発達したマウスミュージックは現在も歌い継がれ、スコットランド音楽の1ジャンルとして数えられています。
皮肉にも楽器の禁止という酷い仕打ちの中で発達した音楽ですが、人間のたくましさ、目先の利益にとらわれず生きる心の強さを深く感じることができます。
おわりに
スコットランドにとってバグパイプがどれほど重要なものであるか、イングランドがよく知っていたからこその禁止。
スコットランドの人々の結束を奪い、士気を低下させる効果的な政策だったかもしれません。
しかし、目に見える物を取り上げたところで伝統や民族意識を根こそぎ消し去ることは出来ません。
植民地支配などによる同化政策、伝統文化の禁止は世界各地で多く行われましたが(悲しいことに現在も続いています)、歴史を見るかぎり、同化政策はどこも失敗しているように見えます。
どんなに力があっても、心は支配できないのです。
人々の心に脈打ち生き続けるもの。
目に見えないものほど、消し去ることは困難なのだと思います。
結局、かなり真面目な話になってしまいましたね…!
無理やりまとめると「音は目に見えぬが意外と残る」ですかね。
それでは、また!!
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出典
柘植元一,塚田健一編『はじめての世界音楽 諸民族の音楽からポップスまで』
音楽之友社,1999年。
サインーコス グループ
バグパイプ=スコットランドの理由
大阪のバグパイプバンド Ramsay PipeBand ラムゼイパイプバンド
バグパイプの歴史
世界史の窓
スコットランド