美しく駆ける白い馬

音楽ミステリー

「スーホの白い馬」の馬頭琴についてあまり知られていないこと3つ

2020年4月23日

こんにちは!打楽器の吉岡です。

浜松市楽器博物館に行ったとき。
モンゴルの楽器・馬頭琴のコーナーが、馬頭琴じゃなかったんですね。

展示品のほとんどが馬の頭じゃない!
教科書で見たのと全く違う!

衝撃と戸惑いでその場に固まる吉岡。


これには遊牧民ならではの理由がありました。

学芸員さんから聞いたお話も織り交ぜて書いていきます。

馬頭がついているとは限らない

Wikipediaより

実際のところ現地の伝統的な楽器は、馬頭ではないものが多いそうです。

馬頭琴の誕生は2000年以上さかのぼるようですが、馬の頭が見られるようになったのは19世紀以降とのこと。
楽器の材質や形にもかなりバラツキがあるそうです。

これは、遊牧民の多いモンゴルでは「楽器職人」という職業は発達せず、基本自作だったことが大きな理由のようです。

伝統的な楽器は馬だけでなく、ガルーダなど様々なバリエーションがあります。
個々の好みに合わせて作り、カスタマイズしていたようです。

この独特な理由、納得するとともに深く感心してしまいました…!

さらに、馬頭琴はモンゴルの言葉でモリン(馬)・ホール(弦楽器)と呼ばれています。
弓と弦に束ねた馬の尻尾を使うことからこう呼ばれているそうです。

(古い時代・地域によってはイケル(イヘル)とも呼ばれ、イケ(母の)・ケル(言葉)という意味を持つそうです。)


馬頭がついているかどうかは本来関係ないという…!

改良で「馬頭琴」になった

本来、馬頭琴は外やゲル(移動式テント)で家族と楽しむことが目的だったため、音量はとても小さかったそうです。

移動しながら生活していたので、各自が調達しやすい材料、好みの形や音色に合わせて自由に作られていました。

移動式テント「ゲル」

1960年代にソ連の楽器職人の指導により、改良が始まったようです。

西洋の楽器に倣い、広いホールでも独奏可能な音量、異なる環境でも安定した音色・音程を目指して改良が進められました。
大量生産できるように楽器の形や素材が統一されていき、このタイミングで必ず馬頭がつくデザインになったと考えられます。

楽器に張られる弦は馬の尾からナイロン製へ、表面と裏面に動物の皮を貼っていた共鳴箱は全て木で作られるようになりました。
さらに魂柱f字孔といったヴァイオリン属に共通する仕組みが取り入れられ、現在のような形になりました。

(馬頭琴に限らずオーケストラで使われる楽器も、このように改良を重ねて現在に至ります。)

スーホの白い馬はモンゴルでは知られていない

白い馬と茶色の馬

「スーホの白い馬」は1950年代に中国人作家の塞野が整理した「馬頭琴」という中国創作の新民話だといわれています。
19世紀以降ですから、すでに馬の頭がついた馬頭琴が多く見られるようになっていたのかもしれません。

中国でつけられた名前「馬頭琴」がそのまま日本に入り、日本語で読まれるようになりました。

モンゴル国では、「スーホの白い馬」は日本人から聞いて初めて知るほど知名度は低く、モリンホールの誕生譚としては「フフー・ナムジル」が有名である。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%BC%E3%83%9B%E3%81%AE%E7%99%BD%E3%81%84%E9%A6%AC


馬頭琴にまつわる民話は以下サイトから読むことが出来ます。
特に「フフー・ナムジル」はとても興味深いです。

モンゴル モリンホールのお話~アジアの楽器図鑑

こちらのサイトに紹介されている民話は3つとも「大切にしていた馬が死んでしまい、そこから楽器を作る」流れは変わりません。

「スーホの白い馬」と「バトルと黄色い馬」は競馬の勝負、そして国の領主という権力者からの惨い仕打ちが共通しています。

一方「フフー・ナムジル」は妬み・嘘といった素朴それゆえの残酷さが印象的な民話で、より遊牧民らしい内容に感じます。

神話のように翼の生えた馬が出てくる点からも、もしかしたら「フフー・ナムジル」はとても古い民話なのかもしれません。

モデルがいるとしたら、翼が映えているかのように速く、駆ける姿が優美な馬だったのでしょう…!

(どのお話にも設定や内容が異なるバージョンが複数存在するようです。)

まとめ

以上、馬頭琴についてあまり知られていないこと3つを紹介しました!

・元々遊牧民が好みに合わせて各自作っていたので馬頭とは限らない
・20世紀半ばに改良されて現在の馬頭琴になった
・「スーホの白い馬」は中国で創作されたらしくモンゴルでは知られていない

ということでした!

現在は馬頭琴だけど、もともと馬頭琴ではなかったのですね。
これからは現地語の「モリンホール」で呼ぼうと思います♪


それでは、また!

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  • この記事を書いた人

よしおか りな

埼玉県川越市・新座市を拠点にマリンバや打楽器を演奏したり教えたり、作曲したり、部活動指導員やNPO理事やっている人。場面緘黙の経験やHSP気質を活かしながらお仕事してます。 alla(アラ)はイタリア語で「…のように」を意味します。しなやかに、たくましく、ミネラル豊富でダシにもお茶にもラッコのお布団にもなる…そんな昆布に憧れます。当ブログは硬くなりすぎず、絶妙な歯ごたえと素朴な旨みでお送りしたいと思います。どうぞ、よしなに!

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